【超短篇小説「FISHING」】

「おじさん、何が釣れるの?」
「何が釣れると思うかね?」
「…」
「夢だよ。チャンスだよ」
「大きいの?」
「ああ、大きいよ」
「釣れそう?」
「ああ、釣れるとも。ただ、じっと待ってるだけじゃダメなんだ」
「じゃ、どうするの?」
「一生懸命念じるんだ。心の中で、夢よ釣れろ、チャンスよ来い、って祈らなきゃいけないんだ」
「そうすれば…釣れる?」
「ああ、幸運の女神様が微笑んでくれるよ、きっと」
「僕も釣っていいかな?」
「ああ、やってみるかね。ただし、失敗しても、誰の責任でもない…自分の責任だよ。いいかい?」
「うん。わかった。失敗したら僕の責任だよ。おじさんの責任じゃない」
「よし。じゃあ道具を貸してあげよう。おじさんの横で、一生懸命念じてごらん」
「うん…」
「…何を念じてる?」
「チャンスよ来い。おじさんのところじゃなく、僕のところにって」
「ハッハッハ。そうかね…。大丈夫さ、お前のところに必ずチャンスは来るよ」
「もし来なかったらどうなるの?」
「来るまで念じ続けるしかないよ」
「なぜ…?」
「なぜ?なぜってかね…?それがこのゲームのルールだからさ」
「ルール?」
「ああ。終わりのないゲームのルールさ。途中で投げれば失格。最後まで頑張り続けた者だけにチャンスはやってくるんだよ」

*2006年7月17日・作
【お知らせ】
アドヴェンチャー・ランナー高繁勝彦がアンバサダーを務めるエコマラソン、2021年の大会予定です。
今年はコロナの影響でどうなるかわかりませんが、関東方面にも出向くことが増えそうです。
1/10(日)第8回淀川エコマラソン(大阪)
1/11(月・祝)第20回鴨川エコマラソン(京都)
3/7(日)第1回足立エコマラソン(東京)
4/11(日)第8回二子玉エコマラソン(東京)」
詳細はエコマラソン公式サイトで…
アドヴェンチャー・ランナー高繁勝彦インタビュー*現在、オンラインで視聴できます!
ヨーロッパで最大規模のアウトドアフェスティバル「ヨーロピアン・アウトドア・フィルム・フェスティバル(E.O.F.T.)」は3都市4会場すべての会場での上映が中止となりましたが、12月11日より1月31日までの期間限定で、9作品中5作品のみこちらでご覧いただくことができます。
レンタル(5作品全て)500円
購入(5作品全て)1500円
*****
アドヴェンチャー・ランナー 高繁勝彦が初めて字幕翻訳を担当した映画、ヨーローッパ各国の主要都市の400もの映画館全てで満員となるほどの人気ぶりという前評判でした。
作品詳細・プレビューは公式サイトで
お問い合わせはこちら
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
- 2020/12/22(火) 06:29:36|
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【超短篇小説「睡眠学習」】
第二学期の中間考査の真っ只中。
僕は受験生。日々大学受験を目指して黙々と学習に励むのが日課だ。
考査2日目の3時間目。得意とする英語ライティングの問題用紙に向かっている時だった。
大問3整序問題(4)の一問だけがどうしても分からなかった。
確かに見たことはある。意味もほとんど分かっている。
( had he / to rain / left his house / it / no sooner / than / began ) .
「彼が家を出るやいなや雨が降り出した」
恐らく出題者はそんな文章を作らせようとしていたのだろう。
う~む。悩んでしまう。比較構文の中でやった記憶があるのだが、thanという接続詞も関係している。それに否定と倒置構文も含まれているはず…。
いろいろ考えてはみるのだが決定的な答えに到達しそうにない。
昨晩午前3時まで頑張っていたせいか、意識が徐々に遠のいていく。
いけない…今ここで眠ったりなんかしたら…ああ…。
僕はまどろみながら机の上で必死に睡魔と戦っていた。
試験監督のH先生の顔がだんだんぼやけていく…。
夢の中で僕は昨晩の自分の部屋に戻っていた。
午前1時40分、英文法の参考書を開いて黄色の蛍光ペンで基本例文の重要箇所にアンダーラインを引いたはずだった。
そう、225ページの一番下に出てきたのがこの文だ。
「彼が家を出るやいなや雨が降り出した」
S had no sooner p.p.than S+V.そうだった。過去完了の時制が登場すると同時に後半のthan以下は過去形。
No soonerを強調するために文頭に出すとあとの箇所で倒置が起こるのだ。
すなわち疑問文の語順になる。過去完了は had + S + p.p.の語順…。
分かった!!
No sooner had he left his house than it began to rain.その瞬間、現実に戻って僕は目を覚まし、考査用紙の英文を確認したとたんに解答用紙に正しい語順で英文を書き始めた。
夢の中で参考書を確認することは決してカンニングなどではない。
その後も、僕は夢の中にインストールした英文法参考書と英単語集で着々と英語の成績を上げていった。
第3回目のマーク模試では200点中198点という結果で、生まれて初めて偏差値70.2を記録した。
英検準1級も難なく合格して、1月のセンター試験でも英語・国語・日本史の3教科500点でも494点という好結果をマーク。
寝る時間を惜しんで勉強する必要もなくなった。起きている間は好きな読書に時間を費やすだけ。
そう、僕は眠っている間に、夢の中で学習に励むことができるようになっていたのだ。
起きている間に蓄積された記憶が、眠っている間にも自然に復習できる。
こんな夢のようなシステムを個人的に開発し、ひとり悦に浸っている。
*アドヴェンチャー・ランナー高繁勝彦が高校時代に実際体験した経験を元にこの物語を書いています。
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- 2020/10/20(火) 16:47:08|
- 超短篇小説
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【かぼちゃプリン奇譚】
花子の部屋にディナーに招かれた夜、デザートにかぼちゃプリンが出てきた。「ねえ、太郎くん。なぜかぼちゃプリンにシナモンをかけないの?すっごく美味しいのに…」「僕はスパイス系は全く駄目なんだよ」「えっ!?駄目って…」「コショーとかパプリカとか…ああいうスパイスは受け付けないんだ。アレルギーがあるって訳じゃないんだけど」「もう一度聞くわね…。太郎くん、なぜかぼちゃプリンにシナモンをかけないの…???」「…だから…僕は…スパイス系は…」「ちがうっ!違うわ!シナモンをコショーとかと一緒にしないで!」「シナモンはスパイスだろ…?」「違うの。太郎くんのその言い方は明らかにシナモンを差別してる」「差別って…そんなたいそうな…」「シナモンに何か恨みでもあるの?」「いや…別に…」「たとえば、前世で、シナモンに関して辛い経験をしたとか…?」「う~ん…前世のことまで覚えてないな…」「思い出してみて!これは大変な問題なのよ」「おいおい…ちょっと…」「下手をしたら、太郎くんとはもう一緒にやっていけないかも知れない…それほどシリアスな問題なのよ」「たかがかぼちゃプリンとシナモンの問題じゃないか。なんでそんな問題にまでエスカレートしちゃうんだい?」「…やっぱり…あなたはシナモンを馬鹿にしてる…。シナモンだけじゃなくて、かぼちゃプリンまで…。そうやって、私のことまで馬鹿にしてるんでしょ?」「違う…違うよ!」「ひどいわ…最低!」「だから、ちょっと待ってくれよ。じっくり話せば分かるってば」「もういいわ…かぼちゃプリンもシナモンも私の大好物なのに…」「何も泣かなくたっていいだろ?」「泣かせたのは…太郎くん、あなたなのよ。私のせいなの?…それとも…?」「かぼちゃプリンとシナモンのことは置いておいてだね…」「ほら…やっぱり…かぼちゃプリンとシナモンをそんな軽くあしらわないで」「どうすりゃいいんだい、全く?」「あなたは…かぼちゃプリンとシナモンのいいところを全く理解しようとしてないでしょ。どうせ私のこともそんな風に適当にあしらっているんだわ」「君とかぼちゃプリンとシナモンは別個だよ」「だめよ…そんな言い訳なんて聞きたくないわ」「あなたがシナモンを嫌いな理由が何であれ、あなたがシナモンを嫌いという事実が許せないの」「誰だって好き嫌いくらいあるだろ。君だってセロリが大嫌いって言ったじゃないか」「話をはぐらかさないで!セロリですって?あんな強烈な臭いのする野菜なんか人間の食べるものなんかじゃないわ」彼女は一度言い出したら意見を曲げることはない。ここは自分が折れるしかないのだ…。「分かったよ。かぼちゃプリンにシナモンをかけるから。許してくれよ」「駄目よ。そんな程度じゃ許されないわ」「じゃ、どうすれば…」「『シナモンを心から愛してます』って言わなきゃ駄目」「シナモンを…心から…?愛してます…」「駄目よ!それじゃ心から愛してるだなんて口先だけの言葉にしか聞こえないから」「シナモンを…心から…愛してます…これでいいかい?」「まだ言葉だけよ。じゃぁね、これから毎日、白いご飯と味噌汁にシナモンをかけるっていう条件で許してあげる」「えっ!?そんな…」「今、シナモンを心から愛してるって言ったでしょ?」「あ、ああ。言ったけど…」「嘘なの?」「嘘…じゃない…な」「じゃ、できるわね」「う…うん…」*******それ以来、僕は自分専用のシナモンを携帯し、ご飯や味噌汁、漬物にまでシナモンをふりかけて食べている。
そして、いつしかシナモンなしでは生きていけない自分になってしまっていた。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
- 2019/11/13(水) 10:33:17|
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【夢銀行のおはなし】
ある日、夢博士はかわいい孫娘の夢子ちゃんから質問を受けました。
「ねぇねぇ、博士。あたし大きくなったらお姫様になりたいんだけどどうしたらいいの?」
「夢子ちゃん、素敵な夢だね。よしよし、教えてあげよう。
夢ってのはね、いったん頭の中にできあがると『夢銀行』ってところに自動的に預けられるんだよ。
預けられた夢は一度に引き出せない。少しずつ現実の世界に引き出していくしかできないんだ。
引き出した夢がひとつの形になるまでは時間がかかるし、夢を預かってもらう期間は預けた人が生きている間だけ。
だから、生きている内に全部引き出せるようにしないといけないんだよ」
「夢を引き出さないまま死んじゃったらどうなるの?」
「その夢はかなわないまま、その人の人生も終わっちゃうんだよ。
たいていの人はね、子供の頃に預けた夢を大人になるまでに忘れちゃうのさ」
「せっかく預けたのにそれじゃもったいないわ」
「そうだね。ただ、預けている間に利息ってのがつくよ。どんどん夢が膨らんでいくんだ。
夢が実現することを考えれば考えるほど大きくなるんだ」
「どうやったら預けた夢を引き出せるの?」
「それはね…わしにも分からないんだ。…夢をかなえるために今できることを一生懸命頑張るくらいのことだろうね。
大切なのはね…あきらめないことさ。これが自分の夢なんだって強く信じ続けることなんだよ…」

*
「PEACE RUN世界五大陸4万キロランニングの旅」公式サイト
テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学
- 2015/12/30(水) 18:20:54|
- 超短篇小説
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超短編小説「オータム・イン・ニューヨーク」

「ただ今留守にしています。発信音の後にメッセージを入れて下さい…。ピーッ」
「やあ、ジュリアンかい?俺だよ、クリスだ。久しぶりだね。
ワールドトレード(世界貿易)センターでテロのあった日、たまたま休暇を取ってたんだ。52番街にある自分のコンドミニアムでくつろいでた。運が良かったとしか言いようがないけど、イーストビルの45階に俺が勤めていたアトランティック・ファイナンスの事務所が入ってたんだ。
テレビのニュースで、いつも目にしてるはずのトゥインタワーが積み木のようにこなごなに崩れ去っていくのを見たよ。まず頭に浮かんだのは職場の同僚たちはどうしたんだろう、ってことだった。ボスのジェフは?秘書のカーラは…?いつも笑っていた気のいい仲間が突然この世から消え去ったんだ。そして、俺一人だけが生き延びた。いったいなぜ…?分からない…。
その後、俺がやったこと…。仲間の一人一人と最後に交わした言葉と、その時の彼らの表情や仕草なんかを思い出してみたんだ。前日の夜まで、本当にみんな健康で平和そのものだったはずなのに…。
それから1週間くらいしてやっと煙が消えた。廃墟と化した貿易センタービル付近を歩いてみたのさ。何ともいえない臭いがそこら中に漂っていてほんとに息苦しかった。このがれきの山のどこかに、彼らがいるはずなのに…。俺には何もしてやれなかった…。
俺はみんなの冥福を祈ったよ。悲惨な最期を遂げた彼らに、神のご加護がありますようにと…。
でも…俺が一番会いたかったのは…君だよ、ジュリアン…。がれきのひとつひとつを手でよけてでも君を探し出したかった…。
もし、もし、このメッセージを聞いてくれるなら…俺のことを、忘れないでおくれ…、いつまでもずっと…。
ルイジアナの片田舎からマンハッタンに来てまるまる6年たったよ。アメリカンドリームを夢みてニューヨークへやってきたけれど、何が自分の夢なのか分からないまま、歳月だけが過ぎてった。
セントラルパークの紅葉はもうほとんど散ってしまった。風も冷たい。
天国ってとこはセントラルヒーティングは入ってるのかい?
5時のグレイハウンド(バス)で故郷へ帰るよ。ハロウィーンとサンクスギヴィングには何とか間に合いそうだな。
南部出身の俺にはこの街は少し寒すぎるんだ…。
じゃ、元気で…。愛してるよ…ジュリアン…」

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「PEACE RUN世界五大陸4万キロランニングの旅」公式サイト
テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学
- 2015/09/11(金) 23:59:59|
- 超短篇小説
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