*更新が遅れて申し訳ありません。11月27日(土)分の更新です。【心揺さぶられる生き様】
佐野由美さんが描いたスケッチ(左はレプリカ)も会場に展示された。大阪でドキュメンタリー映画「with…若き女性美術作家の生涯」を見てきた。
監督は毎日放送のTVディレクター・プロデューサーの
榛葉健さん。
元々はテレビのドキュメンタリー番組として作られたもの。素晴らしい作品と言う評価も高く、再放送されたものが、のちにまた再編集され、映画版として製作された。国内外から様々な賞を受賞。自主上映という形で最初の上映がされてからもう10年が経っているという。
*あらすじについて…阪神淡路大震災を経験した佐野由美さん、当時19歳の芸大生。家屋は全壊、命だけは何とか取り留めた。震災の後、自宅からスケッチブックとペンを持ってきて、被災地や避難所にいる人々の日々のありさまをスケッチとして記録し続ける。
ボランティアに関心を持ち始めた佐野さんは、大学を出た後にネパールを訪ね、スラム街にある小学校として美術教師を勤めることになった。
カースト制度の中で、最底辺にいる層の子どもたちが中心。担当していた中で一番貧しい子どもの家庭では、母親が街の清掃をして一日50円程度の収入で3人の子どもを育てていた。食べるものもろくにない。病気をしても、医者にも行けない、薬も買えない。佐野さんがイメージしていた貧しさよりも現実ははるかにシビアなものだった。
佐野さんは、そんな日常の中でいろんな人々を描き続けた。対象となったのは生きるために働く人々であったり、貧しくてもその日その日を精一杯生きている人々であったり、美術を教えていたこどもたちであったり…。貧しくても子どもたちは生き生きとしている。本当に純粋な輝く瞳で、佐野さんの授業を楽しんでいる様子がうかがわれる。
赴任後わずか二ヶ月で現地の言葉をマスターし、それとともに現地の人々との交流も中身の濃いものに変わっていった。
誰もが佐野さんの人柄に魅かれ、佐野さんも彼女が関わるあらゆる人々を大切にしていた。
あっという間に任期の一年が終わり、間もなく帰国しようというその矢先に衝撃の結末が…。
映画上映のすぐ後に、榛葉さんのトークがあり、映画製作にまつわるいろんなお話を聞かせていただいた。静かな、それでいて訴えかけるような榛葉さんのことばもまた、不思議すぎるくらいスーッと自分の中に入ってきた。
*個人的なインプレッション…1)人はなぜ生まれ、何を糧として生きていくのか…この3月まで高校で英語を教えていた一教師として、自分自身もその問いについてずっと考えてきたし、関わっていた生徒たちにも同じことを問いかけ続けてきた。
佐野さんは、とても明るく、社交性のある女性だ。それゆえに自分が喜ぶ以前に人に何かしてあげることで喜んでもらいたいという気持ちが強く内にあったのだろう。
絵を描くことで、誰とでもコミュニケーションの糸口を見つけ、そこから自分自身を理解してもらって、同時に相手のことも深く理解しようと努める姿勢は素晴らしい。
例えば、人を描く際に、わずか10分にも満たない時間で、まるでコピーでもしたかのように、よく特徴をとらえた作品を作る。絵に魂を吹き込んだとでも言えそうな作品。どの作品にも共通して言えるのは、目に勢いのある表情。貧しさの中でも、命をフルに使って生きている、生命力あふれた人々のそれぞれの日常がその作品から伝わってくる。
彼女は、描いた人々から生きるエナジーを吸収していたのだろうし、同時に自分自身もスラムの人々に何らかの活力を与えていたように感じる。
絵を介して、そこには命のコミュニケーションがあったと言うべきだろうか。
彼女が遺した作品の数々…いろんな場所で個展が開かれ、多くの人が彼女の生き方に賛同し、彼女の魂が込められたライフワークは、今後もさらに多くの人の目にふれ続け、いつまでも人々の心を揺さぶり続けることだろう。
榛葉さんが、佐野さんの生涯を、メディアというキャンパスに描いたのがこの作品なのかも知れないが、佐野さんというモチーフは榛葉さんのドキュメンタリーを通してさらに輝きを帯びて、ネパールのスラムに住む子どもたちの笑顔のように、キラキラ輝いている。
自分自身が輝くことで、他の誰かを輝かせられる人生…。
そんなところに、生きるヒントが隠されていはしないだろうか…。
2)豊かさとは何なのか?日本人の多くは、モノとカネに囲まれて物質的には豊かなはずなのに、心は逆に貧しくなっている。欲望がひとつあれば、延々と欲望の輪廻が続く。それが文明人の性(さが)なのかも知れない。
ネパールの人々を見ていると、古きよき時代の日本人にあったはずの「心」の豊かさが感じられるのだ。
スラムの人たちは、与えられた運命だから…という理由でその貧しさを当たり前のこととして受け入れている。「忍耐と寛容」がごく自然に人々の中に息づいている。
ないならないで済ます。その楽天的な生き方・考え方があればいい。
旅をしていた自分も、旅のさなか、「食べる・走る・寝る」が日々繰り返されるだけだった。
旅にあれば生活がシンプルになる。生活がシンプルになれば生き方・考え方もシンプルなものになっていく。すると、同時に自分自身が心身ともに浄化され、ピュアな人間に変わって来る。
欲望から解放され、生きるのに必要な最低限の知恵を働かせて暮らしていけばいい。
かつて旅をしていた種田山頭火や松尾芭蕉といった人たちもきっと同じように感じていたのではあるまいか…。
要らないものを「捨てる」生き方…。人に何かを「与える」生き方…。誰をも「愛する」生き方…。
エゴも捨て、欲望も捨て、自分が誰かに与えられるものは惜しみなく与え、自分が出会う誰をも愛せるように…。旅をしている間極力そんな生き方を理想としていたつもりだ。
世界平和は、心の豊かさから…。個々人のそんな生き方が、心の平穏をもたらすことで実現できるような気がする。
「榛葉健さんについて」(ウィキペディア)「with…若き女性美術作家の生涯公式ホームページ」「with…若き女性美術作家の生涯」(ウィキペディア)*この映画上映会の案内を頂いた、世界二周サイクリストの
中西大輔さんのブログもご覧下さい。
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テーマ:♪人生・生き方♪ - ジャンル:ライフ
- 2010/11/27(土) 23:59:59|
- 人生論
-
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| コメント:4
人生は、時間の長さではないということを感じました。
何に、一生懸命打ち込んだか・・短いけれどもぎゅっと凝縮された生き方が鮮烈でした。
まさかの結末に、思わず気持ちが沈みました。
こんな、ドキュメンタリーがあったのかと・・恥ずかしながら、知りませんでした。
とてもじゃありませんが、辛く切なくて映像を正視できないと思います。
- URL |
- 2010/11/28(日) 20:28:50 |
- mid-tail #-
- [ 編集 ]
なにかそれぞれの人がそれぞれに感じてもらえる映画でした。もっと多くの人に見てもらえるといいですね。各地の学校とかで上映はされないのでしょうか。
- URL |
- 2010/11/28(日) 22:30:51 |
- 中西大輔 #JalddpaA
- [ 編集 ]
mid-tailさん:
旅の途中で亡くなられる人の話は何度か耳にしました。
いつどこで死のうと、人は死ぬ運命にある生き物。
どんな生き方をしたかが問題であって、何歳まで生きたと言うのはもはや問題ではないのだと思っています。
ジェイムス・ディーンのように駆け足の人生のような生き方もあるのでしょう。
死に急ぐ必要はありませんが、本当に死ぬ気で生きるという姿勢は忘れたくありませんね。
- URL |
- 2010/11/28(日) 23:43:32 |
- KAY.T #-
- [ 編集 ]
中西さん:
人の生き方から学べることがたくさんあります。
我以外皆我が師…作家吉川英治氏が言われた言葉は正しいんですね。
中高年の世代よりも、若者たちにぜひ見てもらいたい映画ですね。
生きる目的を見出せない中学生や高校生たちには特に…。
- URL |
- 2010/11/28(日) 23:46:11 |
- KAY.T #-
- [ 編集 ]